座付き作家Qui-Taの『大山鳴動してカメ一匹』

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zoom RSS 『極彩夢譚』作品解説2〜「母と娘の3部作」編(の前編)

<<   作成日時 : 2011/10/21 19:21   >>

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2011年10月21日(金)

今回は、過日の作品解説1に続く、もう一つのモチーフについてお話しします。

これ、実は公演前にアップするつもりで草稿までは準備していたのですが、過去の脚本をひっくり返して台詞やあらすじを確認する暇がなく、ずっと眠っておりました。

といわけで、今さらな感じもしますが、「へぇ〜、そんなつもりだったんだ」という程度に読み流していただければ幸いです。


<母と娘の3部作>
さて、本作と私の過去2作『サーキットの鹿』(2002年)と『火焚の娘』(2006年)は、それぞれまったく別の物語なのですが、1人だけ共通する人物名――ヤヨイ(やよい・弥生)――が登場します。

必ずしも主人公というわけではなかったりもするのですが、3作品を通してみると、彼女が徐々に成長し、重要性を増しながら、一貫してテーマを背負い続けてきたことが分かります。また、これは私の問題意識が明確になっていく過程とも言えます。

以下、「取り戻す女=やよい(ヤヨイ)」に焦点を当てて、物語を振り返ってみます。

『サーキットの鹿』
一方の主人公である夫・長一郎は、妻に相談もせず、いきなり脱サラ。岐阜県の田舎で友人と大根作りに精を出します。

他方の妻・さつきはエンタメ系雑誌編集者。華やかな世界が好きで、夫について田舎暮らしをするつもりはサラサラなし。娘・やよいとともに東京で暮らしています。

そして、幼いやよいは(両親の会話の中だけに登場するのですが)ある日、家出して長一郎の元へと行きます。

物語は、長一郎の父・藤巻大二郎の失踪を受けて家族が群馬の山奥にある藤巻邸に集結、長一郎とさつきが再会する辺りから始まります。昔の脚本を読み返してみると、私はこんな「あらすじ」を書いています。

夏の群馬、山奥にある大二郎の邸宅。執事の山本は、主人:大二郎の謎の失踪を受け、疎遠だった彼の子供たちを呼び寄せる。しかし、到着早々、皐(さつき・長一郎の妹)と菊男(皐の彼氏)は葉子(女中)に車をぶつけられ、ムチウチに。呼ばれた医者は産婦人科医。失業中の睦夫(むつお・長一郎の腹違いの弟)は兄姉に邪険にされ、別居中の長一郎とさつきは娘のやよいが家出し長一郎のもとへ行ったため、2人の親権問題が再燃。そこへ、葉子の妊娠が発覚、大二郎失踪説が自殺説、神隠し説、誘拐説に死亡説も流れて相続問題勃発。はてさて、物語はどこへ向かうのか?
長一郎、さつき夫婦を中心に展開される、なぜかハッピーエンドなドタバタ・ホームコメディ!


そしてラスト<S08 夫婦の結末・夏休みの始まり>。
事件が一段落し(本当はしていないのですが)、リビングに2人きりの長一郎とさつき。岐阜に来て、百姓の女房になってくれという長一郎の頼みを、さつきはバッサリ断ります。しかし、…

さつき  …でも、行ってみたい。
長一郎  え?
さつき  あなたの村を見てみたい。
長一郎  別に、何もないけど…。
さつき  あなたが、どんなところで暮らし、何をしているのか? 何がそんなに楽しいのか、「何もない村」に何があるのか、私も自分の目で見てみたい。


そして長一郎は、この家にやよいを呼び寄せ、家族3人で夏休みをとろうと提案します。

長一郎  やよいはさ、ただオレに会いたいとか、お前よりオレのほうがいいからって、一人で新幹線に乗ったわけじゃないと思うんだ。どちらかじゃなくて、両方とも手に入れたかったんだ。
さつき  …。
長一郎  でも、きっと「このままじゃダメだ。自分で何とかしよう」って考えたんだ。5歳の子供にそこまでさせといて、親のオレたちが何もしないってわけには、いかないだろう。
さつき  …それで、…その後、どうなるの?
長一郎  分からない。それで何かが解決するわけじゃない。…でも、何か、初めてみようよ。


現実はややこしく、めんどうくさく、明るい未来は何一つ約束されていないけど、その先にはほのかな光が見える…そんな景色を描きたかったんでしょうね、私は。

ともかくも、やよいが一人で新幹線に乗った瞬間から、家族をめぐる「奪回と再生」の物語は動き始めたのであり、「取り戻す女」としての「やよい」が誕生したのでした。

もっとも、このテーマが3部作へとつながっていくとは、このときの私は夢にも思っておりませんでしたが…。

<余談>
この公演、私は役者としては参加せず、裏でボードを回転させるなど補助的な裏方をやっておりました。そのため、劇場に入って初めて役者さんたちの演技を観たのですが、さつき/ながともるみちゃんの演技があまりにあっけらか〜んとしていたので、

  あの、さつきのラスト、もっと長一郎に対する愛情を示してほしいんだけど。
るみちゃん  え 愛ですか
  さつきは、別に長一郎を嫌いになったわけじゃなくて、だから「行ってみたい」につながるんだし、愛情がないと、この物語は成立しないんだよね。
るみちゃん  いやぁ、はは、…愛はないですねぇ
  でも…
演出  ま、そういうことだから。

ええ〜っ! と衝撃を隠せなかった私ですが、脚本を提供するというのは、しばしば、こうした事態を受け入れるということでもありまして、演出家と役者の作り上げたものが脚本家の意図と異なったとしても不思議はない、というか、多かれ少なかれ異なるものなんですよね。
難しいところです。


さてさて、思いがけず(?)長くなってしまいました。『火焚の娘』は次回にしましょう。

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