座付き作家Qui-Taの『大山鳴動してカメ一匹』

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zoom RSS 『極彩夢譚』作品解説2〜「母と娘の3部作」編(の後編)

<<   作成日時 : 2011/10/22 15:12   >>

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2011年10月22日(土)

さてさて、前回からの続きです。

『火焚の娘』
この物語の中でヤヨイは、家を出て行った母親・サツキを連れ戻すために旅立つ少女として登場します。

ここでも、脚本の人物設定とあらすじを引用しておきます。ちょっと長いのですが、ご容赦をm(_ _)m

主な登場人物
サツキ  物語の主人公。38歳、フリーライター。
 北関東の小さな山村で育つ。父は村の消防署に勤務、母は陶芸家。有名ではないものの、大らかで個性的な作風にはファンも多く、東京から買い付けにくる小料理屋の主人もいる。しかし、サツキが10歳のときに両親が別居、母は隣町にアトリエを構え、一人暮らしを始める。以来、母は一度も家に帰ることがなかった。またサツキも、中学・高校時代、その気になればいつでも会いに行ける距離にありながら、母を訪ねることができなかった。
 高校卒業後、家を出て都心の大学へ進学、そして就職。学生時代から交際していた男との間に子供ができたことから結婚、ヤヨイを産む。子育ての合間に書いたエッセイが認められ、文筆活動に入る。一時期は人気も出て本を出版したこともあるが、徐々にコラム記事が多くなり、現在は主に旅行や食べ物をテーマにした文章を書いている。雑誌の連載も持ち、それなりに多忙な日々である。ヤヨイが6歳のとき、判を押した離婚届を残し、夫と娘のもとを去る。以来6年間、2人とは会っていない。
 父の訃報を受け、十数年ぶりに故郷に帰る。

ヤヨイ  もう一人の主人公。サツキの娘。12歳、小学6年生。
 幼い頃に母・サツキが家を出たため、今は父親と2人暮らし。カメの田中君が親友。日に日に精神的に衰弱していく父の姿から、父の死と母の永遠の喪失を予感し、カメとともにサツキを取り戻す旅に出る。

カメ(田中君)  ヤヨイの親友、相談相手。ヤヨイの精神世界の住人。かつてはサツキの精神世界の住人であったのかもしれない。年齢不詳。ヤヨイとともにサツキを取り戻す旅に出るが、ヤヨイの成長と自立に伴い、やがて別離の時を迎える。

あらすじ
 ある夏の日の真夜中、フリーライター・サツキのもとに、田舎で一人暮らしをしていた父親が自殺したとの連絡が入る。サツキは急遽、実家に戻り、奇妙な村人たちとともに葬儀の準備を進めつつ、幼い頃に家を出た母の帰りを待つ。しかし、母はとうとう現れず、サツキはかつて失われたものがすでに取り戻せないことに気づき、絶望する。
 一方、父とともに暮らしながら、幼い頃に家を出た母・サツキの帰りを待つ娘・ヤヨイは、父の精神的な衰弱死と母の永遠の喪失を予感し、母を連れ帰り、失われた家庭を取り戻すための旅に出る。ヤヨイは彼女の精神世界の住人・カメの田中君とともにサツキの精神世界をめぐる冒険を続け、ついにサツキと再開する。
 奪回の物語。


そして、ラストシーン。
まずは、<9 待ち人来ず>

雨、葬儀場の軒下、喪主たるべき母を待つサツキ。そこへ、1羽の小鳥が飛び込んできて、ひとしきり羽根を繕うと、また雨の中へ飛び立っていく。なぜか心惹かれ、導かれるように小鳥の後を追うサツキ。そして、彼女が村の西側を流れる川のほとりにたどり着いたとき、稲妻が光り、遅れて遠くから雷鳴が聞こえる。

サツキ  …そして、私はある予感と記憶とともに、ゆっくりと振り向いた。そう、そこには私の育った家があった。古びた竹囲いの、小さな庭と小さな窓の、白壁作りの家。しかし、それは私の思い出とはまったく違う、そう、「違う何か」のようだった。庭に生い茂る雑草、あちこち土の剝がれ落ちた壁を我が物顔につたう蔓草。屋根はところどころ瓦が落ちている。それは、ずいぶん前に家であることをやめているようにも見えた。これが、私の家だった場所…。
 …母は来ない。そうだ、母は来ない。あの女が来るはずはない。なぜ私は、あの女が来るなんて思ったのだろう。いや、初めから知っていたのかもしれない。もちろん、来ると思っていた。そうでなければ、村人たちを、あれほどしつこく問いつめたりはしない。私は、あの女が絶対に来ないと知っていながら、必ず来ると確信していたのだ。
 今までだって、そうだった。高校の卒業式にも来なかった。成人式にも、結婚式にも、娘が生まれたときにすら、あの女は来なかったのだ。
 …そうだった。父が亡くなったからって、…たかだか夫が死んだくらいで、あなたが来るはずはなかったのだ。なぜなら、…あなたはもう、ずっと遠くに行ってしまって、帰り道すら分からないのだから。

  再び、稲妻が光る。

サツキ  今度は私が言ってあげる。「あんたも好きに生きなさい」。そして、暗くて遠い場所に、二度と戻ってこられないあの場所に、たった独りで行けばいい!


本当に絶望的な台詞ですね。たしか、下敷きにはカズオイシグロの諸作品を使っていたと思います。『充たされざる者』(古賀林幸訳、中央公論社)や『わたしたちが孤児だったころ』(入江真佐子訳、早川書房)辺りでしょうか。

また、この作品ではイシグロ作品の特徴の一つでもある「信頼できない語り手(unreliable narrator)」の手法を真似ており、サツキの確信(主観)と村人たちの認識(客観的な事実)とのズレを背景に置いてストーリーを進めています。

さて、話を戻しましょう。

現れない母に向かって「たった独りで行けばいい!」と叫ぶサツキはしかし、自分自身が鬼と化し、その「暗くて遠い場所」に足を踏み込もうとしていることに気づきません。

そこへ、ヤヨイが現れます<10 ママ帰れ>
 *以下の「〓」は、ネット上だと差し障りがあるかもしれないような固有名詞の部分を削ったものです。

ヤヨイ  まだ間に合うよ!
…(中略)…
ヤヨイ  あたし、独ぼっちはイヤ。だから、ママ、一緒に帰ろう! 今夜の夜行で帰ろう。あたしと一緒に。
…(中略)…
ヤヨイ  思い出して。駅前のターミナル。バスは9番乗り場。〓〓丘団地行き。途中で大学病院を経由するの。ほら、あたしがオタフクやったときに連れてってくれた。
サツキ  (目を閉じて)ヤヨイがオタフク…
ヤヨイ  「に、かかったとき」ね。
サツキ  熱が出て、大変だった。
ヤヨイ  朝一番のバスに乗って、
サツキ  朝一番のバスに乗って、
ヤヨイ  3丁目で降りて、〓〓バーガーの前を通って、
サツキ  〓〓バーガーの前を通って、
ヤヨイ  〓〓酒店を左に曲がって、
サツキ  力持ちのご主人だった。
ヤヨイ  「ホテル・〓〓」の前を素早く通って、
サツキ  子供は見ちゃいけないからね。
ヤヨイ  〓〓薬局を通り越して、
サツキ  あ、何だっけ? 角のパン屋さん。
ヤヨイ  〓〓パン屋さん!
サツキ  そうそう、〓〓パン屋さん。ちょっとふっくらした奥さんが、やってらして。
ヤヨイ  え?…ううん。〓〓のおばさんはね、今すごいことになってるんだよ。 
サツキ  すごいこと?
ヤヨイ  そう。〓〓のおばさんはね、日に日に膨らんでいるんだよ。
サツキ  ま、そんなこと、言うもんじゃありません。
ヤヨイ  〓〓パン屋さんで、朝ご飯を買おう!
サツキ  ヤヨイの好きな、クロワッサン。
ヤヨイ  あの、大きくて、柔らかいの。
サツキ  スイス風。
ヤヨイ  スイス風!
サツキ  パパも好きだったね。
ヤヨイ  3人分、買って帰ろう。
サツキ  パン屋さんから、3軒目。
ヤヨイ  玄関を開けて。
サツキ  …ただいま。
ヤヨイ  パパはまだ寝てる。
サツキ  起こしに行こう。
ヤヨイ  階段をのぼって。
サツキ  左手の部屋。
ヤヨイ  ノブをゆっくり回して。
サツキ  ドアをそっと開けて。
ヤヨイ  パパは布団にくるまってる。
サツキ  寝ぼすけね。
ヤヨイ  パンの包みを開けよう。
サツキ  いい香り。カーテンをサッと引いて。
ヤヨイ  ああ。なんて、まぶしいんだろう。
サツキ  パパがモゾモゾしている。
ヤヨイサツキ  …おはよう。
ヤヨイ  今までとは違う、昨日までとは全く違う、新しい一日が始まるんだ。

  サツキ、目を開いて。

サツキ  ヤヨイ。
ヤヨイ  何、ママ?
サツキ  …ママね、…帰りたい。

  感動的に終わってください。
                                    (おわり)


ト書きに「感動的に終わってください。」と書くのもどうかと思いますが、まぁ、そんな気分だったのでしょうね。
『サーキット〜』と比べ、私の問題意識が明確になっているのが分かります。

ちなみに、「遠くて暗い場所」は本作『極彩夢譚』でもチー・トゥーの台詞でも使っています。また、カメは私の作品に繰り返し出てくるキャラクターで、旗揚げ公演『月光社員』(1996年)で1シーンに登場して以来、『独白王子』(2000年)では主人公の親友として登場、『火焚〜』は3代目になります(この間、衣装の甲羅はどんどん進化していきました)。

加えて私事ながら、「田中君」は白血病で亡くなった高校時代の友人の名前で、作品の裏テーマが彼へのオマージュになっていました。田中君が亡くなったのが1990年ですから、私は自分の中で彼の死を昇華させるのに10年かかったことになります。

『極彩夢譚』
こうして、ようやく本作に辿り着きました。
本作では、すっかり大人(っていうか、オバハン)になったヤヨイが登場します。

 こうして見ると、私はこの数年、ヤヨイを描き続けてきたと言っても過言ではありませんが、それは「取り戻す女」を描くことであり、回復あるいは再生の物語を書くことでもありました。
 そして、三部作の「シメ」となる本作でヤヨイは、三人の「母親」たちが逃れられなかった負の連鎖を断ち切り、自身の未来を「獲得」するための一歩を…きっと、踏み出しているはずです。

 本作は、そんなヤヨイが辿る「奪回の物語」であり、彼女の両親――神崎とV.――を巡る「極彩色の夢物語」なのです。

 いやぁ、長かった。で、次回は、『極彩夢譚』のあらすじ紹介でもしましょうか。

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